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「昭和8年」を起点に、ジャック・フィニイよろしくモダン都市を散策するブログ

2016-01-01から1年間の記事一覧

動き出す!絵画〜ペール北山の夢

明治維新後の日本を、かりに人生にたとえるとしたら、やはり大正時代は青春時代であり、なにはなくても情熱だけはたっぷりあるアマチュアリズムの時代だったのではないか。東京ステーションギャラリーで開催中の『動き出す!絵画~ペール北山の夢』もまた、…

イヴォンヌ・キュルティ(Vn)と令嬢たちのレコード蒐集

夏の夜の読書は、ミステリにかぎる。そこに描かれる寂寥とした世界にしばし浸ることで脳内からクールダウン、涼を呼ぶのだ。 ここ最近では、雑誌「新青年」の初代編集長として江戸川乱歩を世に送りだしたことでも知られる森下雨村が、昭和7(1932)年に発表…

モボがみたフィンランド〜谷 譲次『踊る地平線』ヨリ

がたん! ――という一つの運命的な衝動を私たちの神経につたえて、午後九時十五分東京駅発下関行急行は、欧亜連絡の国際列車だけに、ちょいと気取った威厳と荘重のうちにその車輪の廻転を開始した。……中略…… では、大きな声で『さようなら!』 さよなら! そ…

海野十三『深夜の市長』に描かれた東京を読む

探偵小説ともSFともつかない、そんな奇妙な味わいをもった小説『深夜の市長』が、雑誌「新青年」の誌上に登場したのは昭和11(1936)年のこと。作家の名前は海野十三(うんのじゅうざ)。逓信局の技師という肩書きをもつ一方、これが作家としては長編第一…

神保町の旧「相互無尽会社」ビルディング

春。アスファルトの裂け目から、一輪のタンポポが顔をのぞかせている。旧「相互無尽会社」のビルディングも、神保町の片隅にそんなけなげな姿でたたずんでいた。 関東大震災の復興期にあたる昭和5(1930)年に竣工したこの建物は、「あたらしい東京」を象徴…

「子供之友」昭和5年6月号の岡本帰一

板橋区立美術館で「描かれた大正モダン・キッズ〜婦人之友社『子供之友』原画展」をみた。学生だったぼくは、松本竣介や長谷川利行といった名前をこの美術館で知り、また〝池袋モンパルナス〟界隈の有名無名の洋画家たちの作品の多くとここで出会った。まだ…

レーモンドの教文館・聖書館ビル

『日本近代建築の父アントニン・レーモンドを知っていますか〜銀座の街並み・祈り』という展示が、いま銀座の老舗書店・教文館でひらかれている。 近藤書店・洋書イエナ、福家書店、旭屋書店……街からどんどん〝活字〟が駆逐されてゆく銀座にあって、いまや教…

桃乳舎のこと

ふと足をとめ、しばし建物を愛でる。道ばたに咲いた可憐な草花を愛でるように、ビルの谷間にひっそりとたたずむ古い建物を愛でるのだ。こんなところにこんな花が! そのちいさな発見は心を弾ませる。 まだあの花は咲いているだろうか、不意に思い出しわざわ…

映画『浅草の灯』

少しずつ、少しずつ島津保次郎を観ている。 浅草オペラを題材に役者たちの青春群像を描いた『浅草の灯』は、ひとことで言えば、〝あの頃の〟浅草を活写した作品である。浅草オペラといえば、大正モダニズム華やかなりし頃、庶民を熱狂させ、モボやモガを生み…