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「昭和8年」を起点に、ジャック・フィニイよろしくモダン都市を散策するブログ

2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

川瀬巴水「夜之池畔(不忍池)」にモダニストの視線をみる

たとえて言えば、昭和8(1933)年とその前後数年はさながら「時代の汽水湖」のようである。そこでは淡水と海水のかわりに、江戸〜明治の封建主義と近代主義とが、大正デモクラシーと軍国主義とがせめぎあい、混じりあい、独特の「汽水域」をなしている。そし…

山田守の荻窪郵便局電話用事務室

荻窪駅の南口を出てすこし歩いたところ、駅前のにぎやかな商業地と閑静な住宅街のちょうど境界あたりに、いまもその建物はたたずんでいる。山田守が設計し、昭和7(1932)年に竣工した「荻窪郵便局電話用事務室」である。 じつは以前、ぼくはこのすぐ近くに…

放送の時代

昭和8(1933)年6月8日の朝は、あちこちの家庭で眠い目をこすりながらラジオにかじりつく人たちの姿が見受けられた。というのも、この日、日本放送協会が戸隠高原から野鳥の声を初めて全国に向け生中継したのである。 去年のオリンピックでは、競技場から実…

昭和9年大晦日の東京會館

久生十蘭の小説『魔都』にはさまざまな建物が登場するが、それらのほとんどは昭和初期の東京に実在した建物である。意図的に実在する地名やランドマーク、人物や事件を巧みに織り込むことで、作者は、フィクションを読ませつつ嫌でも現実を連想せざるをえな…

茂田井武と久生十蘭

とある冬の日、ぼくは教文館の4階にある喫茶室で文庫本片手にぼんやり暇をつぶしていた。これから「茂田井武展ー記憶の頁ー」と題された展示をみに、ノエビア化粧品の本社ビルまで行くつもりだ。茂田井武がパリに着いたのは昭和5(1930)年のこと。「巴里」…